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- 【愛媛県 東温市】愛媛大学睡眠医療センター センター長・准教授 岡 靖哲 先生
愛媛大学の睡眠医療センターには、不眠症、過眠症、睡眠時無呼吸症候群など幅広い睡眠障害の患者さんが来られます。むずむず脚症候群の患者さんは、常時20人以上受診していますが、以前に比べ、症状が重症である患者さんの割合が減っているのが特徴です。
むずむず脚症候群は数年前まで、一般の人に病名があまり知られていませんでした。しかし近年、治療薬が承認され、治療の可能性が広がったことで、メディアやインターネットに病気のことが取り上げられるようになり、むずむず脚症候群についての情報が浸透した結果、病気の認知度も高くなりました。そのため以前のように、医療機関を受診しても診断がつかず何軒も回ってから専門医にたどり着くという患者さんは減り、自分でインターネットで調べて症状が当てはまるからといって受診に来られる患者さんや、かかりつけ医がむずむず脚症候群だと気がつき、我々専門医を紹介して受診されるケースが増えてきています。他の医療機関ですでに治療をしているけれど、症状が十分改善せず紹介される患者さんもいらっしゃいますし、また中には症状が脚にではなく、腕や背中など他の部位に現れて受診される患者さんもおられます。
受診に来られる患者さんの多くは、就寝前に脚に不快感があって寝つけない、眠れない、夜中に目が覚める、ということを訴えておられます。むずむず脚症候群の症状の表現はさまざまですが、「とにかく脚をじっとしていられなくて寝つけない」という症状が基本にあり、患者さんご自身が症状に悩んで受診されることがほとんどです。時に、ご家族や周囲の方が気づいて受診につながることもあります。むずむず脚症候群では、夜中に脚がぴくっと周期的に動く現象がよくみられるのですが、それにご家族が気づいて受診され、よく話を聞くと、「そう言われれば寝る前に脚が気持ち悪くて、こすったりしないと眠れません」とおっしゃって治療につながるケースもあります。またむずむず脚症候群は家族歴のある方に発症しやすいので、ご家族に同じような症状の方がいると、むずむず脚症候群だと気づくこともあります。
受診される患者さんで、インターネットで調べてから来院される方も多いのですが、インターネットには間違った情報が載っていることもありますから、情報源を確認した上で正確な知識をもっていただきたいと思います。むずむず脚症候群を見きわめる大きなポイントは、下肢に不快感があるだけでなく、「脚をじっとしていられず、動かさずにはいられない状態がある」、「夕方から夜にかけて症状が現れたり、強くなる傾向がある」などです。脚に不快感があり眠りが妨げられている方は、むずむず脚症候群である可能性が高いのですが、別の病気で同じような症状になることもありますので、インターネットの情報だけで判断せず、まずは医師にご相談いただきたいと思います。
むずむず脚症候群は鉄欠乏と関連する場合も多く1)、必要に応じて鉄剤の補充を行います。末梢神経や腰椎の疾患の他に、鉄欠乏症、うつ病やパーキンソン病、妊婦さんにもみられ、これらに伴う二次性のむずむず脚症候群で受診される方もおられます。うつ病や抑うつ症状とむずむず脚症候群の関係については、発症との関連性がはっきりとはわかっていませんが、不眠症状の強いむずむず脚症候群の患者さんは抑うつ症状のスコアが高く、また抗うつ薬がむずむず脚症候群の原因になることも指摘されていることから、うつ症状をお持ちの方や抗うつ薬を服用していらっしゃる方は気をつけていただく必要があります。
また妊娠を契機に、むずむず脚症候群の症状が現れたケース、あるいは第2子、第3子と妊娠を繰り返す度に症状が悪化する方もおられます。妊婦さんでは使用できる薬剤が限られるので、鉄剤を中心に用いますが、鉄を補充しても改善しないケースもあります。また妊婦さんのなかには出産後に症状が改善した方も多くおられます。その他、前兆のある片頭痛が頻繁に起こる患者さんでは、むずむず脚症候群が多いという報告もあります2)。これらの、むずむず脚症候群と関連の深い疾患などについても知っておくと良いでしょう。
むずむず脚症候群の治療は、大きく非薬物療法と薬物療法に分けられます。薬物療法の対象になるのは、大まかな目安として症状が週2~3回以上現れる患者さんで、重症度分類でいうと中等度以上の患者さんになります。一方、非薬物療法は重症度に関係なく、すべての患者さんに用いられます。まず、ニコチンやカフェイン、アルコールなど、症状が悪化する可能性のある嗜好品の摂取は控えていただくよう指導しています。またむずむず脚症候群は、日中に激しく運動すると夜に症状が悪化する場合があります。山登りに行った日や、バーゲンに行った日の夜など、症状が強く出る方がいます。そのため日中の運動量は、上手にコントロールしていただくのが望ましいといえます。反対に寝る前にストレッチやマッサージなど脚を軽く動かすことは症状を和らげる効果がありますので、是非試していただきたいと思います。中等度以上の患者さんには、こうした日常生活での工夫をしながらお薬を服用していただくことになります。現在は治療薬の選択肢も広がり、治療すればほとんどの患者さんで、日常生活あるいは眠りに支障がないレベルまで睡眠の改善を得ることが可能になってきていますので、きちんと治療を受けていただきたいと思います。
むずむず脚症候群の患者さんは女性や高齢者に多くみられますが、男性の患者さんもいらっしゃいます。年齢は幅広く、中年や若年者、さらには小児にもみられる病気です。脚に不快感があり、自分はむずむず脚症候群ではないかと疑っている方や、症状に悩んで眠れない方がいらっしゃいましたら、ぜひ医療機関を受診してください。自己判断で鉄剤などのサプリメントを飲み続けるのはお勧めできません。まずはかかりつけ医、あるいは神経内科や精神科、睡眠などの専門医に相談してみましょう。
万が一、受診したかかりつけ医のもとで判断が難しかったり、治療がうまくいかなかった場合は、専門医を紹介してもらうようにしてください。むずむず脚症候群を疑って受診した患者さんのなかには、他の疾患の方もいらっしゃるかもしれません。しかし他の疾患と区別し、本当にむずむず脚症候群であるかを診断するのは医療機関の役目ですから、典型的な症状がありながら受診されていない方は、遠慮せず受診してみることをお勧めします。
1)Rangarajan S, et al.: Sleep Med. 8: 247, 2007
2)Lin GY, et al.: J Headache Pain. 17: 97, 2016