専門医が説く むずむず治療のすすめ

むずむず脚症候群の症状は、言葉に表すと千差万別ですが、生活の質(QOL)を著しく低下させます。表現に窮するような脚の不快感があり、眠れない方は、専門医を受診してみましょう。

【秋田県 秋田市】秋田大学大学院医学系研究科 医学専攻 病態制御医学系 精神科学講座 教授 清水 徹男 先生

むずむず脚症候群の患者さんの多くは他科で診断がつかず、自ら症状を検索して専門医を受診

 私は大学病院の精神科医として、うつ病、統合失調症、パニック障害などの精神疾患の患者さんを中心に診ていますが、むずむず脚症候群のような、他科でなかなか診断がつかなかった睡眠障害の患者さんの診療も行っています。現在当院には、むずむず脚症候群の患者さんが15人ほど定期的に通院されています。
 初診のむずむず脚症候群の患者さんは月に2人くらいです。かかりつけ医の紹介で来られる方もいますが、ネットで「足」「痛み」「むずむず」といった症状にまつわる単語をご自身で検索してむずむず脚症候群を知り、受診される方が多いです。整形外科、皮膚科、内科などさまざまな科を受診してもなかなか症状を理解してもらえず、正しい診断を求めてご自身で行動を起こし、専門医にたどり着いているのが現状のようです。

むずむず脚症候群の症状の特徴は、「皮膚の裏側や深いところ」の不快感

 むずむず脚症候群の症状の表現は「ほてる・熱い」「冷える」「虫が這うような」「むずむず」など様々で、100を超えるともいわれています。患者さんは医師に症状をうまく伝えられずもどかしい思いをされます。変わった表現をすると首をかしげられるのではと懸念して、「痛い」「ジンジンする」「ピリピリする」など一般的な言葉を使われるので、神経痛と間違われることがしばしばあります。しかし、実際に患者さんが感じているのはもっと複雑で奇妙な、「皮膚の裏側や深いところ」を、「虫が這うような」不快な感覚です。
 私は、症状が「表面の感じか、深いところの感じか」を患者さんに確かめるようにしています。秋田の方言には、深部のうずくような持続性の不快感を意味する「やむ」という言葉があり、それに対して表面がピリピリとするような感覚を指す「ひらめく」という言葉があります。むずむず脚症候群の症状は「やむ」のほうであって、「ひらめく」ではないということになります。私が聞いたことのある、ほかの表現としては「皮膚の裏側を虫が這う」「筋肉の中がチクチクする」であるとか、深いところの感覚を指す「ズカズカする」という言葉もありました。
 このような「深いところに感じる不快な感覚」が脚を動かすことによって軽減され、じっとしていると悪化するといった点が、大抵のほかの疾患の痛みとは異なるむずむず脚症候群の特徴です。

不眠によるうつ病、高血圧による心疾患・脳卒中のリスク上昇の可能性

 むずむず脚症候群のもうひとつの特徴は、症状が夜間や安静時に悪化することです。生活習慣として本来は、夕食後にリラックスタイムを設けることが良いのですが、この時間が症状の悪化によって奪われてしまいます。このため約7割の患者さんに睡眠障害がみられます。眠ろうとしてじっとしていると症状が現れるので、寝つきが悪くなります。いったん寝ついても中途で目が覚めやすく、目が覚めると再び不快な症状が現れるために、その後なかなか眠りに戻れません。それだけではなく、夜眠れないために日中に眠気や疲労感が現れて、日常活動に支障をきたし、生活の質(Quality of Life:QOL)が低下します。むずむず脚症候群の患者さんのQOL低下の度合いは、心臓病や糖尿病よりも大きく、うつ病に近いともいわれています。眠れない生活が続くことでうつ病の発症リスクが高まる可能性もあります。
 また、むずむず脚症候群の患者さんは高血圧を生じやすく、高血圧が心疾患や脳卒中などの心血管疾患の入口であるため、これらの重大な疾患のリスクを高める可能性があると考えられています。

むずむず脚症候群の治療は、それぞれの患者さんに合った生活指導と薬物療法

 むずむず脚症候群は男性や若い方にもみられますが、多くは女性や高齢者です。鉄欠損乏貧血が明らかな場合は鉄の補充を行いますが、原因が不明な場合は生活習慣の改善や薬を使った治療(薬物療法)を行います。非薬物療法は、規則正しい生活を送ること、午後3時以降はコーヒー・紅茶などカフェインの摂取はしないことなどが基本になります。このほかにも、患者さんご自身の経験から見出した生活の工夫が患者会のホームページなどで紹介されています。これらの効果には個人差がありますので、ご自身に適した対処法を試してみるのがよいと思います。
 一方、薬物療法については、むずむず脚症候群の治療薬には現在いくつかの種類があり、それぞれ患者さんに合ったものを、最適な用法用量で処方されます。

むずむず脚症候群を疑ったら、睡眠の専門医、神経内科、精神科を受診

 むずむず脚症候群は脚の不快な症状や不眠症状を引き起こすだけでなく、他者の理解を得られなかったり、QOLが著しく低下したりします。心身の重大な疾患にもつながりかねませんので、できるだけ早くむずむず脚症候群の治療を受けてもらいたいと思います。そのために、まずは正しく診断されることが必要ですが、今こちらの記事をご覧になり、ご自身がむずむず脚症候群かもしれないと疑われている場合は、一度、睡眠の専門医、もしくは神経内科、精神科を受診しましょう。睡眠の専門医を探す際は、日本睡眠学会のホームページにある睡眠医療認定医リスト(認定医、認定機関)が参考になります。脚の不快感はあっても不眠症状のない患者さんでも受診できますので、まずはご相談ください。

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