専門医が説く むずむず治療のすすめ

むずむず脚症候群は、適切な治療を受ければ症状の改善が期待できます。週3回以上症状がみられたらできるだけ早く受診し、脚の違和感と不眠症状の両方があることを医師に伝えましょう。

【大阪府 堺市】医療法人 杏和会 阪南病院 院長 黒田 健治 先生

むずむず脚症候群は、未だ多くの患者が他の疾患と間違われて診断

 当院は精神科の専門病院です。私が担当する睡眠外来には、週に10人ほど睡眠障害の患者さんが受診しに来られますが、近年、過眠症とともに多いのがむずむず脚症候群の患者さんです。むずむず脚症候群の患者さん、またはむずむず脚症候群との鑑別が必要な症状をもつ初診の患者さんが週に2人くらい受診に来られますね。患者さんご自身が、「自分はむずむず脚症候群ではないか」と疑って受診されます。半数以上はすでに別の病院で治療を受けられた患者さんで、整形外科や皮膚科などの診療科、かかりつけ医などを受診したけれど、症状が良くならなかったという方たちが多く、長いと5年くらいむずむず脚症候群の診断が受けられなかったという患者さんもいらっしゃいます。以前に比べると、疾患名が医師や患者さん達の間でずいぶん知られるようになってきましたが、未だ的確な診断を受けずに他の疾患と間違われて、治療を受けている患者さんが多いのが現状といえます。

むずむず脚症候群は、日本では2~5%の患者がいる身近な疾患

 むずむず脚症候群はけっして珍しい疾患ではありません。欧米での有病率は10%前後といわれ、日本でも人口の2~5%もの患者さんがいるといわれています。この中には「自分はむずむず脚症候群かもしれない」と悩みながらも、まだ治療を受けていない患者さんが多く含まれていると思われます。特に40歳以上になると有病率は高くなり、50歳代、60歳代と高齢になるほどむずむず脚症候群の患者さんは増えていきます。このため高齢化の進む日本において、むずむず脚症候群は今後ますます増えていくと予想されますし、私自身、実際に患者さんが増えていると実感しています。また女性の患者さんが男性の約2倍と多いのも特徴で、女性は男性よりも鉄欠乏性貧血による二次性のむずむず脚症候群が多いためと考えられています。
 このように、むずむず脚症候群は私たちにとって身近な疾患のひとつといえます。軽症の患者さんの場合は生活習慣を見直すことで、症状が改善することが多く、中等症以上の患者さんでは生活習慣の見直しと薬物療法を行うなど適切な治療を受ければ、症状が改善することが期待できますが、先程述べたように、適切な治療を受けずに症状に苦しんでいる患者さんがいるというのは、大変残念なことだと思います。

脚の違和感と不眠症状が週3回以上みられたら、早期の受診が重要

 むずむず脚症候群は、脚に「気持ちの悪い感覚」(違和感)を感じる疾患です。夕方や夜などじっとしているときに症状が現れやすく、ほとんどの患者さんが、脚の症状のために不眠に悩まされています。脚の違和感は、「むずがゆい」、「ほてる」、「うずく」、「ずきずきする」、「痛い」、「冷たい」などいろいろなかたちで表現されます。もし週に3回以上、「眠れない」、「寝つきが悪い」という日があり、そのとき上記のような脚の「違和感」も感じるようでしたら、あなたはむずむず脚症候群である可能性があります。症状をそのまま見過ごさないで、適切な診療科を受診するようにしましょう。「なるべく早く病院に行ってきちんと診断してもらい、正しい治療をする」ことが何より大切です。

 どこの診療科を受診すればよいのか悩まれる患者さんもいるかと思いますが、日本睡眠学会の認定医の資格がある睡眠の専門医を訪ねるとよいでしょう。インターネットなどで調べると、専門医を調べることができます。しかし、それが難しければ神経内科、心療内科、精神科を受診するようにしましょう。最近では、むずむず脚症候群の治療薬が使えるようになったことで、専門医でなくても治療ができるようになりつつあります。ただし、誤って「不眠症」と診断されて不眠治療薬を服用することや、痛み止めなどを多数服用するような事態は避けなければなりません。そのため受診の際には、医師に眠れない症状があることと、必ず脚に違和感があることの両方を、しっかり伝えるようにしましょう。そして症状の改善がみられない場合は、睡眠専門の診療科を受診するようにしてください。

むずむず脚症候群は、的確な診断と適切な治療により症状の改善が期待

 当院のような専門病院ではむずむず脚症候群かどうかを診断する際、まず血液検査を行い、別の疾患である可能性を除外します。それから終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査を行い、脚がピクピク動く周期性四肢運動障害(PLMS)の有無を確認します。また私は、患者さんにお薬手帳を持ってきてもらうようにお願いをしています。それはお薬手帳からこれまでの既往歴や処方されていたお薬、現在患っている病気がわかりますので、二次性のむずむず脚症候群を診断する上で大変役立つのです。
 むずむず脚症候群と診断された患者さんには、非薬物療法として飲酒や喫煙、カフェインを避けるなどのほか、適度な運動をする、脚のマッサージや湿布を貼る、そして規則的な就寝を心がけるよう勧めています。特に最近では就寝時にテレビや照明をつけっぱなしで寝る人が多くみられるので、きちんと睡眠時間を確保するためにも、日常生活の見直しは大切です。また薬物療法に関しては、現在むずむず脚症候群の治療薬はいくつか種類があるので、主に疼痛がみられる患者さんにはこのお薬を、というように、患者さんに合った治療薬の使い分けが可能となっています。

 むずむず脚症候群の疾患名は浸透しつつあるものの、残念ながらその治療を受けている患者さんはまだほんの一部といえます。なかには抑うつ症状がみられる患者さんもいますが、診断を受けてきちんと治療さえすれば、症状は改善する可能性があります。最後にもう一度、「症状に悩んではいるものの、家事や仕事が忙しいなどの理由で受診されていない患者さんがいましたら、できるだけ早く睡眠専門医や心療内科、精神科を受診し、適切な治療を受けるようにしてください」と強調したいと思います。

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