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- 【島根県 出雲市】島根大学医学部精神医学講座 教授 堀口 淳 先生
当科では、うつ病などの精神疾患に加えて、不眠を訴える患者さんもたくさんいらっしゃいます。ひとくちに不眠といっても原因はさまざまで、睡眠薬を飲んだら改善する、といったケースばかりではありません。生活習慣や別の病気が不眠を引き起こす原因となっていることもあるため、不眠を改善するにはそれらの原因を見つけ出して適切な治療を行う必要があります。「眠れない」と訴える患者さんの中には、うつ病などの精神疾患のほかに“むずむず脚症候群”や“睡眠時無呼吸症候群”といった、いわゆる睡眠障害に関連する病気が原因の場合があります。そのため、私は不眠を訴える患者さんには「夜に脚がむずむずしたり、ほてったりして脚を動かしたくなって、眠れなくなることはありませんか?」などと聞くようにしています。患者さんには若い方もいますが、やはり60歳代以上の高齢の方が多いと思います。
むずむず脚症候群は、その名前からわかるように、主に脚に“むずむずする”などの不快な症状が現れる病気です。症状を訴える表現の仕方は“ほてる”“痛い”“ピリピリする”“むずがゆい”“冷たい”など、人によってさまざまです。島根の方言では「痛い」を「せつい」と表現したり、四国では「なんか変な感じ、だるい」ということを「だらしい」と言ったりしますね。脚にみられるこれらの症状は、患者さんによっては「更年期症状のようなもの」「年齢のせい」とかたづけてしまい、病気であることに気づいていない方もいらっしゃるようです。もし脚にむずむずなどの不快感を感じ、夜眠れないことがありましたら、お近くの睡眠専門医、もしくは精神科や神経内科で診察を受けてみることをお勧めします。
ご自分が感じられている症状や、症状が現れる時間帯などをなるべく細かく先生にお伝えいただくと、むずむず脚症候群を医師が診断する上で非常に良いヒントになると思います。
以前、A市在住の約1万人ほどの高齢者に睡眠に関するアンケートを行ったところ、3.7%の方がむずむず脚症候群と疑われる結果になりました。その中の希望者の方に公民館に集まっていただき、直接診療させていただきましたところ、約3人に1人がむずむず脚症候群であると考えられました。他の2人は糖尿病による神経症状や坐骨神経痛の方たちでした。しかし、むずむず脚症候群は糖尿病の方に合併する場合も多く、中高年を過ぎる頃からむずむず脚症候群の患者さんが多くなり始めることを考えると、糖尿病にむずむず脚症候群を合併している患者さんを見逃してはいけません。糖尿病の患者さんも日中に脚がピリピリすることがあるので、脚に症状が現れても「自分は糖尿病だから」と思い込んでしまい、むずむず脚症候群を見つけ出すことが難しくなります。むずむず脚症候群は、「夕方から夜間にかけて症状が現れやすい」「床について眠ろうとする時やじっとしていると、脚を動かしたい欲求にかられる」「歩き回ると症状が軽くなる」など、特徴的な所見がいくつかあります。このようなことも頭の片隅において、ご自分の症状を医師にお話しになるとよいでしょう。
むずむず脚症候群は、他の病気やうつ病を治療するお薬などによっても引き起こされることがあります。たとえば原因となる病気のひとつに貧血があります。先ほど「むずむず脚症候群は中高年の方が多い」とお話ししましたが、20歳前後の若い女性で貧血気味の方が、「脚に違和感があって、なかなか寝つけない」と訴えてくることもしばしばあります。また、胃がんの手術をした方が脚に違和感を覚えるようになり、がんが脚に転移したと思いひどく落胆していたところ、実はむずむず脚症候群だったというエピソードもあります。このように、むずむず脚症候群は他の疾患によって引き起こされる場合もあり、その原因は多岐にわたります。
最近は、むずむず脚症候群を治療するお薬の種類が増えてきました。むずむず脚症候群の症状の特徴にあわせて、お薬が選択できるようになり、ご自分にあったお薬を服用することで、症状が軽くなる場合があります。しかし、薬物治療を行う際にもし貧血などがあれば、むずむず脚症候群を引き起こしている原因として、まずその治療を優先すべきです。しかし、糖尿病などの慢性の基礎疾患がある方や、むずむず脚症候群が重篤で不眠が重症な場合、その治療とむずむず脚症候群の治療も併せて進めていくことを希望される患者さんも多いので、両方の治療を同時に行っているのが実情です。またお薬だけではなく、特に夕方以降は良い睡眠がとれるようカフェインやアルコールを控える、規則正しい就床と起床、就寝前の軽い運動など、日常生活の工夫も忘れないようにしましょう。
高齢のむずむず脚症候群の患者さんは、特に他の疾患を併存している場合が多いので、脚に違和感を感じたり不眠がみられたら“年齢のせい”とあきらめないで、一度先生に相談していただきたいと思います。