専門医が説く むずむず治療のすすめ

むずむず脚症候群のつらい症状を理解してもらうためにも、周囲の人に症状について話してみましょう。症状に悩んでいる患者さんは、医療機関を一度たずねてみましょう。

【愛知県 名古屋市】久米クリニック 院長 久米 明人 先生

海外では病名が誤解を生み、病気が正しく理解されない時期がありました

 当クリニックでは、むずむず脚症候群と診断された方の半分以上が、「もしかしたら自分はむずむず脚症候群ではないでしょうか」と、自ら病気を疑って受診されています。情報化社会の今でこそ、この病気の存在が世間一般に広く浸透しつつありますが、つい最近までは病気として正しく理解されていませんでした。海外ではむずむず脚症候群が“製薬会社によって作られた病気ではないか”と批判されていた時期もありました。実際、病名に対する誤解や偏見から、米国ではテレビの人気番組でむずむず脚症候群の症状が笑い種にされたり、英国ではむずむず脚症候群(英訳:Restless Legs Syndrome)の韻を踏んだパロディソングが、CD化されたこともあります。
 その後、米国では患者団体(旧RLS財団、現WED財団)の取り組みにより、病気が正しく理解されるようになりました。そして2011年9月には、むずむず脚症候群の疾患概念を確立したカール・アクセル・エクボム氏と、患者の特徴を医学文献に初めて記述して薬物治療を試みたトーマス・ウィリス氏にちなみ、病名を「ウィリス・エクボム病」に変更すると発表しました。この発表には病名から生じる誤解や偏見をなくし、病気を正しく理解して欲しいという強い思いが込められています。一般的に、新しい病名は医師が発表する論文等から広まりますが、残念ながらこの病名を使った論文がまだ少ないことから、「ウィリス・エクボム病」が病名として定着するにはしばらく時間がかかりそうです。

むずむず脚症候群は治療可能な身体疾患です

 むずむず脚症候群で最も困るのは、睡眠を妨げられることによって引き起こされる不眠症で、日中の生活や仕事に支障をきたす場合があります。また脚の症状のために、飛行機や夜行バスに長時間乗ることが難しいこともあります。こうした生活の質(Quality of Life:QOL)の低下を改善していくために、まずはむずむず脚症候群の情報をご覧いただき、症状がなぜ起こるのかの理解を深め、この病気は治療可能な身体疾患であることを知ることが大切です。病気のメカニズムがわかると、症状に対する不安が軽減することもあります。
 そして、「もしかして自分はむずむず脚症候群かも」と少しでも心当たりのある方は、睡眠や神経内科を専門とする医療機関を一度受診していただきたいと思います。そのとき、医師に「自分がこの病気かどうかを診断してほしい」と率直に伝えることが大事です。また病名だけでなく、必ずご自身の症状についてもきちんと伝えるようにしてください。

脚の症状を改善するために、医療機関への受診とライフスタイルの見直しを

-むずむず脚症候群は、健康保険を利用して治療が受けられます-

 むずむず脚症候群の患者さんは病気を深刻に受け止めてもらえなかったり、正しく理解してもらえず、心ない言葉に傷ついたりすることがあるかもしれません。しかし、むずむず脚症候群はわが国において「病気」として認定されており、健康保険を利用して治療が受けられる病気です。現在はむずむず脚症候群の治療薬が数種類そろっていますので、症状に合ったお薬を選んで治療することができます。特に中等度から重度の症状のある方は、本当につらい思いをしていらっしゃると思いますので、遠慮なく医師に相談していただきたいと思います。

-何かに集中することで、症状が気にならなくなることがあります-

 むずむず脚症候群の患者さんは、多くの場合、お薬の服用によって症状が軽くなりますが、例えばカフェインを含む飲み物を控える、寝る前にストレッチをする、症状が強くなる時間帯に趣味に没頭する、生活スタイルを夜型に変えるなど、ライフスタイルを工夫することで、つらい症状を上手に乗り切ることもできます。この病気は特に精神を集中させることによって症状が軽減されるので、音楽や読書など、何か集中できるものを見つけるのがよいでしょう。

脚の症状について家族や友人と話し合い、病気に対する正しい認識を広げましょう

 むずむず脚症候群は不快な異常感覚が脚に、特にふくらはぎとすねによく現れます。この異常感覚は“ざわざわする”、“重くなる”、“中で水が動くような”、“虫が這うような”などと表現されます。さらに、「からだを動かすように駆り立てる気持ち」に襲われ、脚をじっとしていられなくなります。これらの症状は“痛い”とか“しびれる”といった誰でも想像できる感覚とは違い、病気になった患者さんにしかわからないものです。そのため周囲の方に病気の説明をしても、なかなか理解されないこともあるでしょう。
 ある患者さんが、会議の前に「今日の会議も長引きそうなので心配だな…」と足を擦りながら後輩に話したところ、「またですか?」とニヤニヤされながら言われてしまったそうです。「こんなことなら、病気のことを言わなければよかった。結局、この苦しさは誰にも理解してもらえない」と涙ぐんで、私にお話しされたことが印象に残っています。

 このように、大変残念な周囲の反応を経験される患者さんは少なくありません。この他にも、友人や家族と一緒に過ごす団欒の場で脚の症状を気にするあなたを見て、一緒にいる人達が「楽しくないのではないか?」「趣味や性格が違うのでは?」と誤解するケースもあるでしょう。そのような場合、脚の症状はむずむず脚症候群によるもので、これは国も認めた病気であることを、相手に理解してもらえるまで何度も説明することが大切です。この病気に対する正しい認識が友人や家族に広がれば、あなた自身の身体的および精神的な苦痛はきっと、軽くなるものと思われます。

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